子どもの食器問題

スカイファームのハウスいちご

こんにちは!

高知県大豊生まれ 

はちきん歯科医師 「山下雅(みやび)」です。

香川県高松市「木太デンタルクリニック」で勤務しています。

寒い毎日ですが、梅の花がちらほら咲き始め、春を感じます。

今回は、むし歯に関する子育ての新常識!について書きます。

子供と食器の共有

一昔前、私が子どもだった頃は、離乳食などを、親が噛み砕いて与えたり、味見してそのまま同じスプーンで与えたりすることが普通でした。

そこから、ミュータンス菌に代表されるむし歯菌が、親から子へ、唾液を介して感染することが分かり、現在では、『親と子の食器やスプーンなどは分ける』ということがママの共通認識になっていると思います。特に、子どものお口の中の細菌が定着する、歯が生え始める6ヶ月頃〜乳歯が生えそろう3歳頃までは「感染の窓」といい、この期間は特に気を付けるようにしていると思います。

この考えの違いで、「親と意見が合わない!」「同じスプーンを使わないで!なんでそんなことするの?!」と、親世代と意見の食い違いにとまどうママさんも多いんじゃないかと思います。

「常識」って、その時代によって全く違ったりしますよね。

それは、科学が段々と進歩していくことにより、昔は分からなかったことがどんどん明らかになっていって、それまでの「普通」が覆されていくことが原因です。そしてまた、新しいことが分かって、「普通」が変わって…の繰り返しです。

私も、2021年2月の「お口にチュー」のブログで、「子どもへのむし歯菌の感染を防ぐ方法の1つとして、スプーンや食器などを分ける」と書いています。

この認識について、新たな研究結果が発表されました。

すでにご存知のかたもいるかもしれませんが、その情報と、それに対してどう考えるか、私の意見を書こうと思います。

令和5年8月に、日本口腔衛生学会が乳幼児期における親との食器共有について

「食器の共有をしないことでう蝕予防できるということの科学的根拠は必ずしも強いものではない」という見解を発表しました。(う蝕=むしば)

以下、口腔衛生学会の声明より引用します。

日本口腔衛生学会の表明

以前から、親から子どもへのう蝕原因菌の感染を予防するために、親とスプーンやコップなどの食器の共有を避けるようにとの情報が広がっています。しかし、食器の共有をしないことでう蝕予防できるということの科学的根拠は必ずしも強いものではありません。最近、親の唾液に接触することが子どものアレルギーを予防する可能性を示す研究内容[1]が報道されました。それに付随し、親の唾液からう蝕の原因になるミュータンスレンサ球菌が子どもに感染するリスクを高めると報道で触れられていますので、情報発信をいたします。

親からの口腔細菌感染は食器の共有の前から起こっている

最近の研究で、生後4か月に母親の口腔細菌が子どもに伝播していることが確認されています[2]。食器の共有は離乳食開始時期の生後5〜6か月頃から始まりますが、それ以前から親から子どもに口腔細菌は感染しているのです。日々の親子のスキンシップを通して子どもは親の唾液に接触しますので、食器の共有を避けるなどの方法で口腔細菌の感染を防ぐことを気にしすぎる必要はありません。

う蝕の原因菌は、ミュータンスレンサ球菌だけではない

親のミュータンスレンサ球菌が子どもに感染することは複数の研究で確認されています[3]。しかし口腔内には数百種以上の細菌が存在し、ミュータンスレンサ球菌だけでなく多くの口腔細菌が酸を産生し、う蝕の原因となりますので、ミュータンス連鎖球菌だけがう蝕の原因菌ではありません[4, 5] 。

食器の共有に気を付けていても、子どものう蝕に差はなかった

う蝕は砂糖摂取や歯みがきなど様々な要因で起こるため、食器の共有と子どものう蝕の関連を調べる際にはそうした要因を考慮する必要があります。う蝕に関連する複数の要因を調べた日本の研究では、3歳児において親との食器共有とう蝕との関連性は認められていません[6]。

子どものう蝕予防のために

親から子どもに口腔細菌が伝播したとしても、砂糖の摂取を控え、親が毎日仕上げみがきを行って歯垢を除去し、またフッ化物を利用することでう蝕を予防することができます。特に、フッ化物の利用は多くの論文でう蝕予防効果が確認されている方法です。フッ化物配合歯磨剤の利用方法は 4 学会合同の推奨方法が出されていますのでご参照ください[7]。

文献

  1. Kubo Y, Kanazawa N, Fukuda H, Inaba Y, Mikita N, Jinnin M, Furukawa F, Kuraishi Y, Yoshihara S: Saliva contact during infancy and allergy development in school-age children. Journal of Allergy and Clinical Immunology: Global 2023, 2(3):100108.
  2. Kageyama S, Furuta M, Takeshita T, Ma J, Asakawa M, Yamashita Y: High-Level Acquisition of Maternal Oral Bacteria in Formula-Fed Infant Oral Microbiota. mBio 2022, 13(1):e0345221.
  3. da Silva Bastos Vde A., Freitas-Fernandes L. B., Fidalgo T. K., Martins C., Mattos C. T., de Souza I. P., Maia L. C.: Mother- to-child transmission of Streptococcus mutans: a systematic review and meta-analysis. J Dent: 2015: 43(2):181-191.
  4. Selwitz RH, Ismail AI, Pitts NB: Dental caries. The Lancet 2007, 369(9555):51-59.
  5. Takahashi N, Nyvad B: The role of bacteria in the caries process: ecological perspectives. J Dent Res 2011, 90(3):294-303.
  6. Wakaguri S, Aida J, Osaka K, Morita M, Ando Y: Association between caregiver behaviours to prevent vertical transmission

and dental caries in their 3-year-old children. Caries Res 2011, 45(3):281-286.

  • 口腔衛生学会、小児歯科学会、歯科保存学会、老年歯科医学会:う蝕予防のためのフッ化物配合歯磨剤の推奨され

る利用方法【普及版】について [https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news/2023/news_230303.pdf]

この発表について私の考え

どう感じたでしょうか?

つまりは、離乳食が始まり食器の共有が始まる前の段階の、生後4ヶ月の赤ちゃんのお口の中に、すでに親のむし歯菌が存在していた。3歳児において親と食器を共有しているかどうかが子どものむし歯と関係なかった、ということです。

この発表を聞いて、どう考えたらいいでしょうか?

「今まで、頑張って子どもと食器やスプーンを分けていたのは無駄だったの?!」

「結局、子どものむし歯を防ぐ方法は何?」

捉え方はさまざまですが、あくまで私の個人的な意見を書いていきます。

まずは、「今まで子どもと食器を分けていたのは無駄だったの?」という疑問ですが、この研究結果は、親子の食器の共有を積極的にすすめるものではないと思います。

それに、「子どもにむし歯菌をうつさない」、という意識をもつことはとても大事だと思いますし、その意識によって、親自身のお口の中にむし歯を作らないでおこう、とか、歯周病を予防しよう、といった考えも生まれてくると思いますので、それは間違ってなかったと思います。

あとは、子どもは風邪や感染症などの病気にかかりやすいですが、食器の共有などで親へ感染することもあると思います。その観点からみると、病気の時に食器を分けることは感染予防に有効ですし、普段から行うことで慣れますので、メリットがあります。

また、私も、子どもとは食器やスプーンはずっと分けてきていたので、今からやり方を180度変えて、同じお箸を使う、とか、食べ物を噛み砕いて与えたりするのはかなり抵抗があるので、しないと思います。

あくまでも、基本は、親と子の食器は分けると思います。

それが、例えば、外出先の食事などで、お箸が人数分無かったりした時はお箸を共有しようか、と考えるようになりました。

また、例えばですが、外食時に、親が注文した食べ物を一口食べた後で、子どもが親のものを欲しがることってありませんか?

「そのうどん食べたーい!」

「え?あなたが食べたいって言ったあなた用のお子様カレー注文しましたけど、それ食べるんちゃうの?」

「いやだー!そのうどんが食べたいんだー!」

「えー…まじかよ…お箸つけちゃったしなあ…、どうしよ。」

こんな経験ありませんか?私は、多々あります。笑

一口食べる前に、子どもが食べるかどうか確認して分ければいいのですが、おっちょこちょいの私は、まあバタバタしていて、こんなことは頻繁に起こります。

今までは、親が一口食べて、そのスープにお箸を戻してしまったら、

「ごめんね、ママが口つけちゃったからむし歯菌がうつるんだ。」

と言って、我慢させるか、別のもので気を逸らすか、お腹に余力があればもう1つうどんを注文していました。

でも、この発表を聞いてからは、

「まあ、いっか。うどんあげるよ。」

と、楽に考えられるようになりました。

子供にむし歯を作らないためには

それじゃあ、結局、子どもにむし歯を作らないためには何をすればいいの?という疑問ですが、

  • 食習慣に気を付ける

特に、むし歯菌は砂糖が大好きなので、砂糖の摂取に気をつけましょう。量よりも頻度が重要です。ジュース、イオン飲料やお菓子をダラダラ食べることは避けましょう。

  • フッ素の利用

フッ素入りの歯みがき剤を、年齢に適したフッ素濃度と量で利用しましょう

  • 歯みがき仕上げみがき

最低、1日一回、寝る前には歯垢を落として歯をきれいにしましょう

  • 親の口腔内状況の改善

親のむし歯や歯周病は治しましょう

この4点に気をつけていただければと思います。

②フッ素の利用については、2023年5月のブログ「シン・フッ素濃度」で書いているので、ぜひ読んでみてくださいね。

科学は日進月歩ですので、今の「普通」が数年後には普通じゃなくなることも十分考えられます。

子育ては思い通りにいかないこともたくさんあるので、こうでなければいけない!!と決めつけず、新しい知識を取り入れて、柔軟に対応していけたらいいなと思います。

もし、分からないことがあれば、歯科医院で相談してみてくださいね。

お悩みが1つでも解決すればいいなと思っています。

診察で女医希望の場合は、電話でご予約の際に女医希望とお伝えください。診療できない曜日や時間帯があります。

2024年もよろしくお願いします。

福寿草 花言葉は「幸せを招く、永久の幸福」

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